建物賃貸借と不可分債務
契約当事者が複数となっている場合、分割債権・分割債務となることが原則です(民法第427条)。
たとえば、兄弟に100万円を貸した場合、債権者は兄弟のそれぞれに対して50万円ずつ請求できますが、一方が支払わないからといって、その分の他方に請求することはできないということです。
では、ある建物を兄弟に賃貸した場合はどうでしょうか?
結論を先に言うと、貸主は兄弟のどちらに対しても家賃全額を請求することができます。
借主である兄弟は建物全体を利用しているものであり、家賃は建物全体を不可分的に利用していることの対価です。
このような場合には、民法上「不可分債務」として扱われるのです(民法第428〜430条)。
ところで、複数の賃借人の一人に家賃全額を請求することはできますが、それだけでは他の賃借人に対して請求の効力は生じません。
このため、請求を受けなかった賃借人に関しては時効の中断も発生しませんし、遅延損害金も発生しないことになってしまいます。
したがって、賃借人が複数となる場合には、当事者となっている全員に対して請求をすることが必要です。
なお、賃借人の債務を「連帯債務」とすることにより、一人の賃借人への請求が他の賃借人にも効力を生じさせることができますので、そのような特約を盛り込むことも一考でしょう。