隣地境界線からの距離
隣の土地との境界線ギリギリのところに建物を建ててしまうと、採光や通風に影響が生じるほか、建物の建築・修繕等の場合に隣地に立ち入る必要がでてくるなどの問題がでてきます。
そのため、民法では「建物を築造するには、境界線から五十センチメートル以上の距離を保たなければならない」と定めています(民法第234条第1項)。
新たに建物を建てるときはもちろんのこと、中古建物の売買・売買の仲介をする際にも、現状の建物が境界線から50センチメートル以上の距離を保っているかどうかを確認しておくべきです。
(ただし、建築に着手した時から一年を経過し、またはその建物が完成した後は、隣地所有者は損害賠償の請求のみをすることができます。)
ところで、建築基準法第65条では「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる」と規定されています。
民法というのは私人間の権利関係を調整するための法律であり、一方の建築基準法は公益のために一定の建築行為を規制する法律であり、両者はそれぞれ目的を異にするものです。
この点について最高裁判所は、建築基準法第65条は民法の特則であると判断しています(最高裁平成元年9月16日判決)。
したがって、防火・準防火地域内で外壁が耐火構造である建物であれば、隣地境界線との距離が50センチメートル未満であっても問題はないことになります。
とはいえ、建築の際に隣地との間でトラブルになることは少なくありませんので、建築に着手する前に隣地所有者等への説明を十分に行い、理解を得ておくことが必要であることは言うまでもありません。
※判決文一部抜粋
建築基準法65条は、防火地域又は準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物について、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる旨規定しているが、これは、同条所定の建築物に限り、その建築については民法234条1項の規定の適用が排除される旨を定めたものと解するのが相当である。
けだし、建築基準法六五条は、耐火構造の外壁を設けることが防火上望ましいという見地や、防火地域又は準防火地域における土地の合理的ないし効率的な利用を図るという見地に基づき、相隣関係を規律する趣旨で、右各地域内にある建物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができることを規定したものと解すべきであって、このことは、次の点からしても明らかである。
すなわち、第一に、同条の文言上、それ自体として、同法6条1項に基づく確認申請の審査に際しよるべき基準を定めたものと理解することはできないこと、第二に、建築基準法及びその他の法令において、右確認申請の審査基準として、防火地域又は準防火地域における建築物の外壁と隣地境界線との間の距離につき直接規制している原則的な規定はない(建築基準法において、隣地境界線と建築物の外壁との間の距離につき直接規制しているものとしては、第一種住居専用地域内における外壁の後退距離の限度を定めている54条の規定があるにとどまる。)から、建築基準法六五条を、何らかの建築確認申請の審査基準を緩和する趣旨の例外規定と理解することはできないことからすると、同条は、建物を建築するには、境界線から50センチメートル以上の距離を置くべきものとしている民法234条1項の特別を定めたものと解して初めて、その規定の意味を見いだしうるからである。