賃貸人変更時の未収賃料の取扱い
売買等によって賃貸中の建物の所有権が移転した場合、賃貸人としての地位は新所有者に当然に承継されることになります。
同時に、賃借人が旧所有者に預託していた敷金についても、新所有者は当然にその返還債務を負うことになります。
(新旧所有者間で敷金相当額の授受をしていたかにかかわりなく、賃借人は新所有者に対し、明渡し時に敷金の返還を求めることができます。)
ところで、建物所有権移転の時点で賃料を滞納している賃借人がいる場合があります。
この場合、未収となっている賃料債権については、旧所有者が回収する権利を持つことになります。
(新所有者は、所有権を取得した日以降の賃料のみ、賃借人に請求することができます。)
これに関連して、次のような最高裁の判例(昭和44年7月17日)があります。
「建物賃貸借契約において、当該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があった場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、未払賃料債務があればこれに当然充当され、残額についてその権利義務関係が新賃貸人に承継される」
例えば、敷金を30万円差し入れている賃借人が、賃料を20万円滞納していたとします。
この状況で建物の所有権が移転した場合、所有権移転の瞬間に敷金30万円のうち20万円分は滞納していた賃料に充当され、残額の10万円のみが新所有者に承継されることになります。
(判例では「当然充当」とされていますので、仮に新旧所有者間でこれと異なる合意をしても、そのことを賃借人に主張することはできません。)