特定目的会社に手付を支払って大丈夫ですか?
「売主が”●●●特定目的会社”というところなのですが、手付金を支払っても大丈夫ですかね?」
以前お客様からご質問を頂きましたので、これについての私の考えを書いてみようと思います。
まず「特定目的会社」とは何かというと、簡単に(乱暴に)言えば「不動産ファンド用のペーパーカンパニー」です。といっても怪しげなものではなく、「資産の流動化に関する法律」という法律に基づいて設立される法人です。
特定目的会社は、ある資産(たとえば不動産とか不動産信託受益権)を取得し、運用(賃貸する等)し、そして処分(つまり売却)すること(これを資産流動化業務といいます。)だけを目的とする会社です。「特定の目的のために設立される会社」=「特定目的会社」というわけです。
※ちなみにファンド業界では、特定目的会社のことを「TMK」と呼んでいます。これに対し、資産流動化法に基づかない証券化で用いられるペーパーカンパニーについては「SPC」と呼んで区別しています。
ペーパーカンパニーよりも実体のある会社のほうが信用できる、と思われるのは常識的かもしれません。しかし、大企業であっても債務超過の疑いのある会社は決して珍しくありませんし、急激に信用状況が悪化することもしばしば起きています。また、本業は順調であっても、新規事業や財務活動の失敗によって屋台骨が揺らぐこともあるわけです。
その点、特定目的会社への手付金の支払いは、以下の理由により必ずしも危険ではないと考えられます。
・特定目的会社は、資産流動化業務以外の業務を行うことが法律で禁止されています。したがって、全く関係の無い事業の失敗等によって財務状況が悪くなる危険性はありません。
・特定目的会社における資金調達は、優先出資、特定社債、特定目的借入等の方法に限られていて、これらについてはすべて資産流動化計画に記載のうえ、財務局に届け出ることが義務付けられています。
・特定社債や特定目的借入を行う場合、債権者(レンダー)との契約によって、レンダーの同意なく債務負担行為をすることが制限されているのが一般的であり、レンダー以外の債権者が存在することは殆どありません。そのため、レンダー以外の債権者の申立によって特定目的会社が破産する可能性は極めて低いと考えられます。
・特定目的会社が資産を処分する場合には、レンダーの事前同意を必要とされているケースが多く、レンダーは買主と売主との間の売買契約の存在を認識していることが通例で、仮に引渡し前にデフォルト(売主の利払いが滞ること)が発生した場合であっても、担保権を行使するよりも買主への売却をそのまま進めるほうが経済合理性があると判断する可能性が高いと考えられます。
もちろん、特定目的会社だから安全だということではありません。特に昨今は賃料収入で利払いができない案件も少なからず存在するわけで、レンダーの姿勢によっては今後特定目的会社の破産が起きないとは限りません。ただそれは特定目的会社特有のリスクではなく、一般の事業法人に対するリスクと同じレベルの話だと思います。