信託受益権売買について(5) 書面交付・説明義務と特定投資家制度
第二種金融商品取引業者が不動産信託受益権(有価証券)の売買の媒介を行うに際しては、原則として以下の書面交付・説明をする必要があります。
(1) 契約締結前交付書面(金融商品取引法(金商法)第37条の3)
(2) 契約締結時交付書面(金商法第37条の4)
(3) 金融商品の販売等に関する法律(金販法)第3条に基づく説明
(4) 宅地建物取引業法(宅建業法)第35条第3項・第50条の2の4に基づく説明
これらの書面交付・説明義務については、顧客(相手方)が「特定投資家」である場合には適用されません(金商法第45条、金販法第3条第7号・同法施行令第10条第1項、宅建業法第35条第3項但書・同法施行規則第16条の4の4)。
「特定投資家」とは要するにプロの投資家ということですが、具体的には以下の者が該当します(金商法第2条第31項・同法第2条に規定する定義に関する内閣府令第23条)。
(1) 適格機関投資家
(2) 国
(3) 日本銀行
(4) 前三号に掲げるもののほか、第79条の21に規定する投資者保護基金その他の内閣府令で定める法人
【地方公共団体、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人、法第79条の21に規定する投資者保護基金、預金保険機構、農水産業協同組合貯金保険機構、保険業法第259条 に規定する保険契約者保護機構、特定目的会社、金融商品取引所に上場されている株券の発行者である会社、取引の状況その他の事情から合理的に判断して資本金の額が5億円以上であると見込まれる株式会社、金融商品取引業者又は法第63条第3項 に規定する特例業務届出者である法人、外国法人】
ところで、金商法第34条の3第1項には次の定めがあります。
『法人(特定投資家を除く。)は、金融商品取引業者等に対し、契約の種類ごとに、当該契約の種類に属する金融商品取引契約に関して自己を特定投資家として取り扱うよう申し出ることができる。』
これを俗に「プロ成り」といい、顧客(相手方)からこのような申出があった場合には、金融商品取引業者は当該顧客(相手方)を特定投資家として取り扱うことができます。そして、当該顧客(相手方)が特定投資家として取り扱われることになれば、前述の書面交付・説明義務は不要となります。ただし、金融商品取引業者が顧客(相手方)を特定投資家に誘導することは適合性の原則(金商法第40条)に反するおそれがありますので留意が必要です。
特定投資家への移行の具体的な流れは以下のとおりとなります。
(1) 顧客から金融商品取引業者へ「申出書」を提出
(2) 顧客から金融商品取引業者へ「同意書」を提出
(3) 金融商品取引業者から顧客へ「承諾書」を提出
(4) 金融商品取引業者から顧客へ「特定投資家への移行に関する書面」を提出
上記(1)の顧客からの申出に対し、金融商品取引業者が上記(3)の承諾をしたときは、承諾日以降、当該顧客は特定投資家とみなされます。したがって、これらの書面は顧客との間の媒介契約書、信託受益権売買契約書の締結日よりも前に作成、授受されている必要があります。
これとは反対に、顧客が特定投資家の場合には、特定投資家以外の者として取り扱うよう申し出ることができる旨を告知しなければなりません(金商法第34条)。具体的には「告知書兼確認書」を交付し、顧客より告知を受けた旨の確認印を受領しておく必要があります。